「会ってみて決める」採用が、組織を疲弊させる — 採用基準の構造化と評価制度との接続|未来の為の人事制度|山田社会保険労務士事務所
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コラム 未来の為の人事制度

第8回

「会ってみて決める」採用が、組織を疲弊させる — 採用基準の構造化と評価制度との接続

中小企業の経営者と話していると、採用について必ず出てくる言葉があります。

「やっぱり、会ってみないと分からないよね」

履歴書や職務経歴書だけでは判断できない。最終的には、面接で会って話してみて、その人の雰囲気や受け答えから、「うちに合うかどうか」を見極める。これが、多くの中小企業の採用判断の実態です。

そして、入社後しばらくすると、別の言葉が出てきます。

「こんなはずじゃなかった」

面接では好印象だったのに、入社してみたら期待と違った。仕事の進め方が合わない、価値観が違う、想定していたほど動けない。半年もしないうちに、本人も周囲も疲弊し、退職に至る。経営者は次の採用に向かい、「次こそは見極めたい」と再び面接の精度を上げようとする。

このループは、多くの中小企業で繰り返されています。会って決めて、ミスマッチが発覚し、また会って決める。採用に費やすエネルギーは増えていくのに、定着率は上がらない。

これは、面接官の見極め能力の問題ではありません。「会って決める」という採用判断の構造そのものが、ミスマッチを構造的に生み出している。半世紀以上にわたる採用研究が、すでに明らかにしている事実です。

第8回の今回は、採用の入口設計の話をします。

「会って決める」採用の予測妥当性は、低い

組織心理学者のフランク・シュミットとジョン・ハンターは、1998年に採用手法の予測妥当性に関する記念碑的な研究を発表しました。85年分の研究データをメタ分析し、各種の採用手法が「入社後の業務パフォーマンスをどれだけ正確に予測できるか」を、相関係数として比較したものです。

この研究の発見は、多くの経営者にとって受け入れがたいものでした。

非構造化面接——つまり、決まった質問項目を持たず、面接官が自由に話を聞きながら印象で判断する、いわゆる「会って決める」面接——の予測妥当性は、相関係数で0.38。一方、構造化面接——あらかじめ決められた質問項目に基づいて、全候補者に同じ条件で評価する面接——は、0.51。

数字だけ見ると、それほど大きな差ではないように見えます。しかし、相関係数の二乗が「説明力」として解釈できることを考えると、非構造化面接が予測できるのは約14%、構造化面接は約26%。約二倍の差があります。

そして、もう一つ重要な発見があります。一般認知能力テストの予測妥当性は0.51、職務サンプルテスト(実際の業務を一部体験させる試験)は0.54。これらは構造化面接と同等以上の予測力を持っています。

つまり、面接で会って印象を確かめるよりも、業務を実際にやらせてみる方が、入社後のパフォーマンスを正確に予測できる、ということです。

経営者の直感や経験は、判断の補助にはなります。しかし、それを採用判断の主軸に据えると、的中率は二回に一回を切るレベルにとどまります。

なぜ「会って決める」が機能しないのか

ここで、心理学者ダニエル・カーネマンの整理が役に立ちます。

カーネマンは、人間の思考には二つのモードがあると論じました。直感的に素早く判断するシステム1と、論理的にゆっくり考えるシステム2です。日常の判断のほとんどはシステム1で処理されます。エネルギー消費が少なく、効率的だからです。

問題は、面接という場面で、システム1が驚くほど活発に働いてしまうことです。

候補者が部屋に入ってきた瞬間、面接官の脳は、表情、姿勢、声のトーン、服装、握手の感触、最初の一言から、無数の手がかりを処理し、数秒以内に「印象」を形成します。この印象は、その後の面接全体を支配します。最初の好印象に合致する情報が記憶に残りやすく、合致しない情報は無視される傾向があります。心理学ではこれを「確証バイアス」と呼びます。

面接官は自分が公平に判断していると感じています。しかし実際には、最初の数秒で形成された印象を、その後の30分から60分かけて確認しているだけ、ということが起こりえます。

さらに厄介なのは、候補者の側もこのことを知っているという事実です。面接対策の本やセミナーは、「最初の印象で勝負が決まる」ことを前提に設計されています。明るい挨拶、しっかりした受け答え、適度な熱意の表明。これらを訓練した候補者は、面接官のシステム1を狙い撃ちにできます。

「会って決める」採用が機能しないのは、面接官の能力が低いからではありません。人間の認知の仕組み上、自由形式の面接では構造的にバイアスが入る。これは、どれだけ経験を積んでも消えません。

採用基準もまた、暗黙知である

第6回で、経営者の判断基準の大半は暗黙知である、という話をしました。採用基準も、同じ性質を持っています。

「うちに合う人かどうか」「センスのある人かどうか」「素直な人かどうか」「成長できる人かどうか」——これらは、経営者の頭の中では明確な意味を持っています。しかし、いざ言語化しようとすると、出てこない。「いや、なんていうか、こう、雰囲気で分かるんだよね」となる。

この状態のままで採用すると、二つの問題が同時に発生します。

一つ目は、面接官による判断のばらつきです。経営者が「合う人」と感じる基準と、人事担当者が感じる基準と、現場社員が感じる基準は、すべて微妙に違います。誰が面接したかによって、合格者の傾向が変わる。組織として一貫した採用ができません。

二つ目は、入社後のミスマッチです。「合う人」と判断して採用したはずが、入社してみると「期待と違う」と感じる。何が違うのかを言語化しようとしても、最初の採用基準自体が言語化されていないため、ズレを特定できない。本人も上司も、なぜうまくいかないのかが分からないまま、関係が悪化していきます。

採用基準を暗黙知のまま運用する組織は、採用のたびに博打を打っているのと同じです。当たることもありますが、外れたときに何が外れたのかを学習できないため、次の採用でも同じ確率で外れます。

入口と評価制度が分断されている問題

採用基準の言語化が必要なもう一つの理由は、入社後の評価制度との接続にあります。

多くの中小企業では、採用と評価は別の仕組みとして運用されています。採用では「明るくて素直で、うちの社風に合いそうな人」を見ます。入社後の評価では「成果を出したか」「数字を達成したか」を見ます。

入口で見ているものと、入った後に見るものが、噛み合っていません。

この分断は、入社直後から問題を生みます。採用面接では、本人の人柄や雰囲気が評価の中心でした。入社して数週間経つと、評価軸が成果と数字に切り替わる。本人は「採用してくれたときに評価されたものは、もう関係ないのか」と戸惑い、組織は「採用時の判断が、入社後の業務にあまり活きていない」と気づきます。

第4回で、評価軸は成果と行動の二層に分解できる、という話をしました。何を達成したかという成果評価と、どう働いたかという行動評価です。

採用基準は、この評価軸の前段として設計されるべきものです。

入社後の評価で「成果」と「行動」を見るのであれば、採用時にもこの二つを予測できる材料を集める必要があります。成果については、過去の実績や職務サンプルテストで予測する。行動については、構造化された質問と、可能であれば短期の実務体験で予測する。「会って合いそうかどうか」という曖昧な印象は、そこから外す。

採用基準と評価制度が同じ軸で設計されると、入社後のギャップは劇的に減ります。本人は採用時に評価された軸で入社後も評価されるため、何を伸ばし続ければいいかが明確です。組織は採用判断のどこが当たり、どこが外れたのかを、評価データから学習できます。

採用と評価が分断されていた組織では、毎回の採用が独立した試行錯誤でした。接続された組織では、すべての採用が、組織の判断精度を上げる学習機会になります。

「合う人」ではなく、「合う条件」を定義する

採用基準の構造化に取り組むとき、最初にぶつかる壁があります。「合う人」という言葉を、どう分解するかです。

「合う人」という総合判断は、実際には複数の要素の混合です。整理すると、以下の三層に分解できます。

第一層は、職務遂行に必要なスキルです。営業として必要な経験、経理として必要な資格、現場作業に必要な体力や技能。これは比較的、言語化しやすい層です。

第二層は、行動様式です。報告の頻度や粒度、判断のスピード、トラブル時の動き方、他者との連携の取り方。第4回で扱った行動評価の軸と、ほぼ重なります。

第三層は、価値観です。仕事に対する優先順位、長期的なキャリア観、組織への関わり方。これは「カルチャーフィット」と呼ばれることが多い領域です。

多くの中小企業の経営者が「合う人かどうか」と言うとき、無意識のうちに、この三層を混ぜて判断しています。スキルが足りなくても、価値観が合えば「合う人」と感じることがある。スキルがあっても、行動様式が違えば「合わない」と感じる。

採用基準の構造化とは、この三層を分けて、それぞれに対する判断手段を別々に設計することです。

スキルは、職務サンプルテストや過去の実績で見る。行動様式は、構造化面接で過去の具体的な行動エピソードを聞き取る(「過去にトラブルが起きたとき、どう動きましたか」など)。価値観は、入社前に複数回の対話を持ち、優先順位を確認する。

この設計が完成すると、採用判断は「全体としての印象」ではなく、「三層それぞれの合致度合い」として記録されます。入社後にミスマッチが発覚したとき、三層のどこにズレがあったのかを特定でき、次回の採用基準を改善できます。

組織は、採用するたびに賢くなっていきます。

入口の精度が、組織全体の安定性を決める

中小企業の経営者が、人事制度を整えようとするとき、多くの場合、評価制度の整備から手を付けます。

しかし、採用の入口が暗黙知のまま運用されている限り、評価制度の整備だけでは、組織は安定しません。入口で精度の低い判断が繰り返される限り、評価制度はミスマッチ社員を毎回正確に検出する仕組みとして機能し続け、人事の主要業務はミスマッチへの対処になります。

入口の精度が上がると、評価制度の役割が変わります。ミスマッチを検出する仕組みから、合致した人材を伸ばし続ける仕組みへとシフトします。経営者は、ミスマッチへの対処に時間を取られなくなり、人材育成と組織の進化に時間を使えるようになります。

採用の入口設計は、人事制度全体の精度を決める基礎工事です。ここを暗黙知のまま放置して上物を作っても、上物の重みで基礎が歪み、いずれ崩れます。

採用基準の構造化、評価制度との接続、三層に分けた判断手段の設計。これらを順序立てて実装することで、組織は「採用するたびに疲弊する組織」から、「採用するたびに強くなる組織」へと変わっていきます。

連載で扱っていくこと

第8回の今回は、採用の入口設計を扱いました。

「会って決める」非構造化面接の予測妥当性が低いこと。シュミットとハンターのメタ分析が、構造化面接や職務サンプルテストの優位性を実証していること。面接という場面では人間の認知のシステム1が活発に働き、最初の印象が判断全体を支配しがちであること。採用基準もまた経営者の暗黙知であり、これを言語化しないままでは判断のばらつきとミスマッチが構造的に発生すること。採用と評価が分断されていると、入社直後から評価軸のギャップが生まれること。「合う人」という総合判断はスキル・行動様式・価値観の三層に分解でき、それぞれに別の判断手段を設計すべきこと。そして、入口の精度こそが、人事制度全体の精度を決める基礎工事であること。

これらは、採用するたびに疲弊する組織を、採用するたびに強くなる組織へと変えるための、入口設計の基礎です。

次回(第9回)は、入社後の育成設計を扱います。多くの中小企業で「育成」と呼ばれている営みは、実態としては経験のある社員から経験の浅い社員への属人的なOJTに依存しています。この属人的な育成を、再現可能な構造として組み直すには、どう設計すればよいのか。学習科学と組織開発の視点から解き明かします。

人事は、感情ではなく、科学です。

私自身、採用基準の言語化と、評価制度との接続設計の最適化に日々向き合っており、思考は今も更新され続けています。引き続きお付き合いいただければ幸いです。

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